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蓬莱通信

ビストロ どんじゃん

今回のコラムでは、お施主様の工事に対する意識と知識が非常に成熟していた為に出来たパターンとして「こんなやり方もあり」と思える施工例を御紹介いたします。


■ ある日、一本の電話があった。「店を改装したい。方向性を変えたいので、店創りを手伝って欲しい。」というような内容の相談をうけ、私は出かけていった。 そのお施主様との打合せが始まってすぐに私は気づいた。「この人は建築や内装のことにとても詳しい。業者もたくさん知っている。いろいろな人と意見やアドバイスを交換していて、自分の展開したい方向性をある程度固めてから連絡してきたのだ」このような場合一見、簡単に物事が進むと思われがちだが、そうとも言い切れない展開となった。私が何処まで関われば、お施主様にとってベストな店創りとなるのか?その線引きが非常に難しい打合せが始まった。設計は施主、デザインとレイアウトは私。機能寸法や設定は施主と私の合同。増築は他社、内部造作とインテリアは当社、家具は施主と私の混成。(施主には工作のセンスがあり、家具工場に勤めていた経験もあり、今でも日曜大工の域を超えた工作と知識を活用して店を運営してきた経歴があった)今回も一部材料の再生と仕入れ、塗装工事全般は施主がこなす事となった。あきれるほどマルチなお人である。

■ コンセプトは在来店の木のぬくもり的なものは残しつつ低予算で現代風の明るくかつ、個室的感覚をとりいれた飲食店の再編という、言葉にするとなにやら小難しい感じになるが、要は「明るく入りやすいモダンなお店にしたいけど、人目を注すようなオープンな空間ではなくて、パーティごとにプライベート感を保てるような間取りにしたい」ということだ。 鉄板焼メインの中に、ビストロを思わせるような、小コースメニューを織り交ぜて、飲む人にとっても、食べる人にとっても居心地のいい空間を施主は造りたかったのだ。在来の店舗スペースより客席数を増やせなくても減らす事は出来ないので、増築案が当初から出ていた。(結構厨房が面積を要するのと間口の制限があり、設計図の元となるスケッチの段階で、6~8案くらい意見の交換がなされた。また増築はすでに他社に声が掛かっていた事もあり、それも踏まえた打合せが必要だったので、着工するまでに何ヶ月も案を練ることになった。


■ 普通は混成的チームでの仕事の場合、各業者の専門職的な技術分野が重複していて、どちらの業者が受け持つのか、又反対に重なっていない為に抜け落ちて誰にも手配されていなかったり、あるいは候補としての選択肢が常に複数存在してしまう事になって迷ったりと非常に交通整理と管理が複雑になりうまくいかない場合が多い。今回はその辺りを充分に予測して、まとめ役としてあえて私が前に出ることを控えた。つまり現場管理者としての仕事を施主本人にお任せして、一参加者の立場から現場に入る事とした。メリットは2つ出た。一つは施主に妥協してもらう内容が減った事。もう一つは私自身の図面を客観的に見ることが出来、私のカラーが出ないことの代わりに職人的な楽しみと充実感を得られた事である。設計屋としては面白くないかも知れないが、技術屋としての楽しみ、また職人として自社の技術や段取りの方法論の分析の時間が持てたりと、普段目に付きにくい事柄が再確認できて非常に有意義だったと思う。中心に納まりたいが故にあるいは売り上げをあげたい、自社のコンプリートを仕事にあらわしたい。などの気持ちが前のめりになって、「うちでやれます。全部うちから買ってください。」などの姿勢で仕事を抱き込みたいところだがそれをしなかった為に得る事が出来た経験だったと思う。また施主は私にそう思わせるほど、よく知っていたしタイミングを心得て居られた。多分出入りした私以外の業者も同じように思えた筈である。現場にはちぐはぐな殺伐感は一日も無かったからである。

■ 私=アサヒ的にアドバイスできて良かった事は、厨房の壁面に関するノウハウ。個室的な雰囲気を出す為のインテリアのテクニック。そして施主の意向を取り込み整理して返す素直さが出せた事。変にプロ意識から施主の素人発想を否定しても何も生まれないことが良く理解できた現場だった。私たちよりよっぽどセンスもアイディアも良い素人は確かに世に存在する。持つべきプロ意識は失ってはいけないが自分に無い発想を取り込むことが出来れば、喜んでもらえる物が創れるかもしれない?斬新な物や質の高い物(その人にとっての)は案外そんな事から生まれるのではないだろうか。

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